第71期司法修習生 7月集会は、平成30年7月15日(日)・16日(月・祝)、京都教育文化センターにて開催します。

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「累犯障がい者などに対する更生支援分科会」講師への質問事項に対する回答

2018.08.11

「累犯障がい者などに対する更生支援分科会」山田英男先生への質問事項 

第1 「司法ソーシャルワーク」とは何ですか。

(回答)

「ソーシャルワーク」という言葉は非常に多義的ですが,「司法ソーシャルワーク」での「ソーシャルワーク」は,「社会的な問題の解決を援助するための社会福祉の実践的活動」や「社会福祉事業」といった狭い意味で使われています。

「司法ソーシャルワーク」は,元々は,刑事事件の被疑者・被告人や少年事件の非行少年らに対して,主に弁護士と連携しつつ,福祉的な援助を行うことを指しました。

もっとも,最近では,もう少し意味が広がって,たとえば,犯罪被害者のサポートについて福祉関係者に関わってもらったり,成年後見で弁護士後見人と福祉関係者が連携して,被後見人の支援をしたりすること等,司法の分野で司法と福祉が連携し,ある人に福祉的な援助を行うことを,広く「司法ソーシャルワーク」と呼んでいると思っていただければ結構です。

なお,「司法福祉」も「司法ソーシャルワーク」と同義と考えて差し支えありません。

 

第2 公判後、出所後等で、弁護士にできる「出口支援」はありますか。

(回答)

受刑している元被告人の家族や支援者らが,本人の出所に備えて受け入れ態勢を整えるにあたって協力したり,連携したりすることが考えられます。

弁護人が,刑事事件を通じて被告人との信頼関係を築けている場合は,支援者への引継ぎがスムーズに行く場合もありますし,受刑者が様々な困りごとを抱えている場合に,法的な側面からアドバイスすることもできます。生活保護の受給の申請に同行することも考えられます。

現在のネックは,弁護士が,出口支援に関わる制度的な枠組みがないため,家族から依頼を受けて,費用をいただくか,そうでない場合はボランティアとならざるを得ないところです。

 

第3 弁護人等の主張する支援計画がしっかりしているか見極めるには、どのような点に気をつけて見れば良いでしょうか。

(回答)

本人の障害特性,犯罪の背景,障害と犯罪との関連性が,しっかりと分析され,見立てがされているかどうかが重要なポイントだと思います。

そこが外れていたり,曖昧だったりした場合は,どんなに支援の中身が充実していても,「再犯防止」を重視する裁判官や検察官の疑問に答えることができません(その支援が,犯罪の抑止にどの程度つながるかが分からないので。)。

弁護士の視点からすると,更生支援計画については,福祉職の方としっかりと意見交換しつつ作成していただくことが重要です。

私は,早い段階で,私自身の見立てを福祉職の方にお伝えしつつ,議論しながら,その部分を練り上げていっていただきます。

詳しく知りたい方は,ご紹介した「更生支援計画をつくる」(現代人文社)をお読みいただきたいと思います。

 

第4 現在、日本では、更生支援の担い手や、支援が行われる場面がまちまちとなっていますが、そのことによるデメリットはありますか。将来的に、更生支援の担い手を一本化するべきとお考えでしょうか。

(回答)

1 分科会でお話したとおり,「出口支援」においては,地域生活定着支援センターがあり,既に一本化されていますので,もっぱら「入口支援」の担い手に関するご質問として回答します。

大きなデメリットは,入口支援の枠組みができていない地域では,どこにお願いしたらいいのか分からないということと,支援のクオリティが各地域で区々になってしまうところでしょう。

現在は,各地域にいる突出した知識・能力を持つ福祉職の方の力量に頼っているのが現実です。そういうスーパーマン的な福祉職が旗を振っている地域では,広く司法と福祉の連携が行われることになりますが,いない地域,あるいは,いても単独で動いている地域では,なかなか司法と福祉の連携が広まっていきません。

結果として,司法と福祉の連携が広まっていない地域では,被疑者・被告人が,十分な入口支援を受けることができないことになります。

2 他方,担い手が多様であること自体は,デメリットではないと思っています。福祉的支援と一口に言っても,色々な専門職・色々な支援の仕方があり,どのような支援がマッチングするのかを予め予測することはできないので,多様な職種・人材が司法と福祉の連携に関与することは,支援の多様性につながるからです。

そのため,入口支援の担い手を一本化する必要まではないと思いますが,各地方自治体に,再犯防止のための委託事業を行うことを義務付けて,最低限の予算と人を確保し,受託した法人等に入口支援も行わせて,入口支援が全国津々浦々まで行き届くようにする必要はあると考えています。

 

第5 70期の弁護士です。数少ない刑事事件の中で、うつ病と診断されている方で福祉支援を拒否された事案を経験しました。結果として、略式で罰金となりましたが、何もできなかったなという思いでした。このような場合、私には何ができたのでしょうか。

(回答)

福祉サイドには,触法障がい者へのアレルギーを持つところも多く,支援を断られることはしばしばあると思います。

うつ病と行った犯罪との関連性がどの程度あるか分かりませんが,略式や執行猶予が予想されるケースで,釈放後の支援が必要なケースであれば,行政の障がい者の窓口や,行政から受託している「精神障害者生活支援センター」等に相談することが考えられます。また,通院中の医療機関のメディカル・ソーシャルワーカー(精神保健福祉士の資格を持ちます。)に相談することも考えられます。いずれも,刑事事件の手続中に動いてくれる可能性は低いですが,釈放後の支援に協力してくれる可能性はあります。

なお,釈放後に必要な支援としては,精神障害者保健福祉手帳の取得,計画相談支援等の各種福祉サービスの利用,収入がなければ,生活保護の受給等が考えられます。これらのための支援全てを,元弁護人自身が行うことは現実的ではないですし,知識もないと思いますので,上記各機関に,刑事処分前・処分後に相談して,サポートをしてもらうことになると思います。

 

第6 一生懸命、障がい者の弁護を行うことは、収入減につながらないのでしょうか。弁護士が真面目に障がい者の弁護を行わないのは、収入増に結びつかない(と思っている)からではないでしょうか。

(回答)

1 残念ながら,現時点で,障がい者等の刑事弁護を熱心に行っても,その事件単位で考えると収入増にならないです。ペイしない事件に時間を使うのですから,他の仕事が受けられず,相対的に収入減になるかもしれません。

そして,真面目に障がい者の刑事弁護を行っていない弁護士も,一定数いるようですが,障がい者対応が面倒くさいという理由の他に,仰るとおり,やっても見返りがない,ペイしないことも理由の一つだと考えられます。

しかしながら,弁護士業務を行ってみるとすぐに分かることですが,ペイしない仕事は,何も障がい者等の刑事弁護だけではありません。否認事件の国選事件は,認め事件の数倍の負担がありますが,報酬は微々たるもので,まずペイしません。法テラスの民事法律扶助事件も,大方はペイしない事件です。

それでも,真剣に否認事件に取り組む弁護士は沢山いますし,民事法律扶助事件で一切手抜きをしない弁護士も沢山います(私は,法テラス神奈川の民事法律扶助の審査委員をしていますが,全くお金にならない事件について感動するほどの仕事ぶりを目の当たりにすることがあり,大いに刺激になっています。)。

ペイしないことを理由に,障がい者等の刑事弁護に真面目に取り組まない弁護士がいるとすれば,きっとその方は,国選事件一般,民事法律扶助事件一般についても手を抜いている可能性が高いと思います。(なんかエラそうな物言いで,ごめんなさい。)。

ペイしない事件でも真面目に取り組むかどうかは,その弁護士自身の職業観の問題だと思います。

2 なお,私も,障がい者等の刑事弁護の国選報酬について,現状のままで良しとは思っていません。障がいを持つ被疑者・被告人の対応について負担が大きい場合などに,追加報酬等を設けることが検討されるべきだと考えています。

ただ,これは国選報酬一般について言えることですが,報酬算定の際,弁護人の事件処理の負担の大きさが反映されない傾向にあります。仮に,何らかの追加報酬が設けられたとしても,ペイできる程度のものにはならない可能性が高いと思います。

3 先ほど,「事件単位で考えると」収入増にはならないと書きましたが,障がい者等の刑事事件で広がった人脈は,色々なところで生きてきますし,仕事をぶりを知った方(福祉関係者,行政機関職員,事件関係者,同業者等)から,事件のご紹介を受けることも度々あります。

その意味では,障がい者等の刑事弁護を熱心にやることは,仕事の幅を広げることにつながりますし,長期的に見て収入増につながる可能性もあると思います。

 

 

「累犯障がい者などに対する更生支援分科会」指宿信先生への質問事項        

第1 「治療的司法」と「修復的司法」とは、概念の重なり合いがありますか。

→ 治療的司法(TJ)は、修復的司法(RJ)の従兄弟と表現されることがあるくらい、親和性があると考えられています。一つには懲罰的な刑事司法観から離れており、いずれも刑罰目的ではないことが共通しています。二ツ目には、地域志向で、更生への他者からの支援的視点が強いことでしょう。人は一人では更生できません。RJは関係修復を更生の手がかりとし、TJはこれを治療や福祉などに求めます。その方法が異なりますが、同時に用いられてもいいし対立する考えではありません。

 

第2 治療的司法について全然書籍化されていないということでしたが、英語などの外国語のものだったらありますか。

→ たくさん出ています。Therapeutic Jurisprudenceで検索してみてください。

 

第3 普通の地裁とドラッグコート、DVコートなどで、弁護の仕方にどのような違いがありますか。

→ 海外の問題解決型裁判所(PSC)は裁判所もしくは検察官が主導することが多いので、弁護人の出番は実は多くありません。既に有罪答弁をした上で手続に乗ることからPSCには弁護人が付いていないタイプも多いくらいです。

 

第4 内閣府再犯防止包括計画について、出所者の「居場所」としてどのようなものが望ましいと考えますか(結局は、出所者のコミニティという枠に押し込めることになりませんか。)。

→ 集会でもお話ししたように、「居場所」の有り様は地域の特性などでいろいろでしょう。また、罪を犯した人の特性や、その罪の内容で、居場所もまちまちです。TJで国際的に普及しているのは、therapeutic community(治療共同体)という自助グループです。日本では薬物犯の場合、ダルクが有名ですね。

また、「出所者をコミュニティに押し込める」というよりも、一般的にはコミュニティが出所者を排除することが問題なのであまり検討されることはありませんが、確かにホームレス被疑者で起訴猶予処分にして福祉に繋ごうとしても、施設を嫌ってすぐに出て行ってしまう、という「居場所」回避のタイプの人はいます。そうした場合、福祉は矯正できませんから「押し込める」ことはありません。

 

第5 現在、日本では、更生支援の担い手や、支援が行われる場面がまちまちとなっていますが、そのことによるデメリットはありますか。将来的に、更生支援の担い手を一本化するべきとお考えでしょうか。

→ 私は民間主導で出所者支援、更生支援が担われることが大切だと考えていますので、一本化するよりも、ネットワークをきちんと作ってどのようなタイプの累犯者、出所者でもどこかでサポートできるような体制作りが大事だと考えています。現在、私が関わっているATA-Netというプロジェクトでは、各地域に「えんたく」という受け皿のプラットフォームを作り、関係機関や民間団体が一堂に会して支援を網を広げられるような仕組みを提案しており、大阪や千葉で、モデルを立ち上げようと準備中です。

 

第6 スライド資料の中で、プログラム例として「コミュニティコート」というものが挙げられていますが、どのような層を対象としたものなのでしょうか。

→ コミュニティコートは、いずれか一つの問題解決に特化しない、地域ベースの裁判所です。ドラッグ、DV、年長少年、ホームレスといった様々な被告人に、問題解決の手段や方法を提供し、更生を後押しするものです。少年審判の成人版のイメージです。

 

第7 刑法総論で、旧派と新派との争いを学びました。この争いの中で、TJは、どのような位置付けになりますか。「第三の波」でしょうか。新派とはどのような差異がありますか。

→ おっしゃる通り、新しい刑罰理論でしょう。脱刑罰ですので刑罰理論とすら呼べません。新派は刑罰の目的を社会防衛と犯罪予防においたわけで、刑罰中心的であることには旧派と変わりません。TJは、刑罰中心の思想から離脱し、刑事司法を更生支援型に組み換えようというのですから大いに異なるでしょう。ただしTJは刑罰を廃止するといった考えはありません。あくまで刑罰目的型刑事司法から更生支援型刑事司法への転換を説いています。更生が失敗したり、本人があくまで刑罰を望むような場合には治療や支援を強制することはできないというのが多数説です(なお、TJ研究者の中には強制的TJというあり方を支持する者もいますし、触法障害者の強制入院などはそうした方向と合致します)。

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